目的

レクチン様酸化LDL(Ox-LDL)受容体(LOX-1)は主に血管内皮細胞上に存在し、Ox-LDLと結合して動脈硬化の病態生理に関与している。著者らは、組換えLOX-1を固相化したプレートおよび抗ApoB抗体を用いてApoB含有LOX-1リガンド(LAB)を測定する受容体反応による測定系を樹立した。最近の疫学研究によると、LABと脳梗塞および虚血性心疾患のリスクとの間に関連性が認められ、その関連性の強さは血圧、喫煙と同等であったと報告されている。また、脂質異常症患者へのピタバスタチンの投与によりLABは有意に低下したが、その際のLAB値とLDL値の減少率には強い相関はみられず、非依存的にLABが低下したと考えられ、スタチン系薬物による抗酸化作用が示唆されている。本研究の目的は、健常者におけるLABと動脈硬化のリスク因子の関係を検討し、動脈硬化予防におけるLABの意義を明らかにすることにある。

方法

1)対象者
心血管疾患や他の重大な疾患の既往のない年齢33歳~62歳(平均: 43.6歳)の健常男性236名を対象者とした。

2)動脈硬化リスク因子の検討
身体測定として身長、体重からBMI (body mass index)を計算し、また腹囲および血圧を測定した。早朝空腹時に採血した血液を用いて、血清総コレステロール、HDLコレステロール、中性脂肪、血糖、尿酸および白血球数を測定した。LDLコレステロールはFriedewaldの式に従い、血清総コレステロール、HDLコレステロール、中性脂肪値から計算により求めた。

3)LABの測定
組換えLOX-1をプレートに固相化し、血漿サンプルおよびOx-LDL標準液を添加してインキュベート後、生理食塩リン酸緩衝液(PBS)で洗浄し、プレートにニワトリ抗アポBモノクローナル抗体(HUC20)を添加してさらにインキュベートした。洗浄後にペルオキシダーゼを結合したヤギ抗ニワトリIgGを添加しインキュベート後、PBSで洗浄しペルオキシダーゼ活性を測定し、標準液による検量線から検体のLAB値を計算した。

4)統計解析
結果は平均±標準誤差で示した。各リスク因子の有病率と喫煙者、飲酒者の割合はそれぞれχ2検定を用いて比較した。単変量解析では、2群間の平均値の比較はStudent’s t testにより行い、3群間以上の比較は一元分散分析を用い、各群間の比較はScheffé F testにより行った。多変量解析では、共分散分析により平均値を比較し、各群間の比較はBonferroni補正後にStudent’s t testにより行った。単変量および多変量回帰分析ではPearson係数および標準化部分回帰係数をそれぞれ算出した。

結果

1)LAB値(19–4520 ng/mL)は正規分布を示さなかったが、対数変換後に正規分布を示した(Kolmogorov–Smirnov検定でのp値: LAB, p < 0.001; 対数変換後の LAB: p = 0.200 )。そこで以後の統計分析では対数変換後のLABを用いた。同様に中性脂肪値も対数変換値を用いた。

2)単変量回帰分析では、LABは喫煙歴、BMI、腹囲、拡張期血圧、総コレステロール、LDLコレステロール、中性脂肪、尿酸、白血球数と有意な正の相関を、HDLコレステロールと有意な負の相関を示した。さらに、喫煙歴、飲酒歴、腹囲、拡張期血圧、HDLコレステロール、中性脂肪、尿酸を説明変数として多変量回帰分析を行ったところ、LABは喫煙歴および中性脂肪値とのみ有意な正の相関を示した。これらの変数にさらにLDLコレステロールを説明変数に加えた分析においても、LABと中性脂肪との間に有意な相関がみられた [標準化部分回帰係数:0.261 (p < 0.01)]。

3)LABは、腹囲、拡張期血圧、中性脂肪の各高値群で正常値群に比べて有意に高かった。またメタボリック症候群(メタボリック症候群は2005年(8学会)診断基準を満たす者)を有する対象者群では、有さない群に比べてLABは有意に高かった。年齢、喫煙歴、飲酒歴、身体活動度、BMI、LDLコレステロールを調整した多変量分析で、中性脂肪高値群の対数変換LABは、正常値群に比較して有意に高値であった[2.386±0.061 (中性脂肪高値群) vs. 2.177±0.028 (中性脂肪正常値群)、p < 0.001]。

4)対数変換LAB値は、非喫煙者に比べて多量喫煙者(一日平均20本以上)において有意に高値を示したが、少量喫煙者(一日平均20本未満)と非喫煙者との間には有意な差はなかった。この結果は年齢、飲酒歴、身体活動度およびBMIを調整した多変量分析においても変わらなかった。

結論

多変量解析から、血中LAB値は、さまざまな動脈硬化リスク因子の中で、特に中性脂肪および喫煙歴と有意な相関を示すことが明らかになった。喫煙は動脈硬化の主要な危険因子であり、喫煙者では非喫煙者に比べて酸化LDL値が高いことが知られているが、喫煙は他の動脈硬化リスク因子と独立してLAB値との相関を示した。また、中性脂肪は今回検討した動脈硬化リスク因子の中で最も強くLABと相関し、喫煙歴やLDL値とは独立してLABと有意な相関を示した。この結果は、食後の中性脂肪上昇に伴う酸化ストレス増加の報告と矛盾しないものである。さらにメタボリック症候群を有する群はLAB高値を示した。このようにLABは、動脈硬化の病態生理と関連した血中酸化ストレスを反映していると推測され、心血管疾患のリスク評価の上で有用な測定項目であると考えられる。