一般財団法人 全日本労働福祉協会様のスクリーニング検査としてのLOX-index®の活用事例

労働者の健康管理の観点から動脈硬化性疾患を予防することの意義をお聞かせいただけますか

当協会は労働衛生管理を行う医療機関として、労働安全衛生法に基づいて勤労者の健康診断や有害業務従事者を対象にした特殊健康診断等を実施しております。わが国は現在、国民皆保険のもと、日本国内ではわずかな自己負担で医療を受けられ、個人の医療機関における受診率や医療機器の普及といった点では先進国の中でも非常に高い水準にあります。

しかし、病気になる前の段階から予防をしていくという観点からは、日本は先進国の中でも非常に遅れを取っていると思われます。そして、医療費の財政圧迫も重要な問題であり、国の方針としても「健康日本21」、「特定健康診査」といった健康寿命の延伸に向けた生活習慣病の対策が急がれている状況であります。

我々、医療の立場からも第五次医療法改正(平成19年)より、重点として四疾病のがん、脳卒中、心疾患、糖尿病(*1)が掲げられており、それらのベースとなる生活習慣病については未病の段階での対策というのが課題となってきています。また元々、健康診断の目的では勤労者の健康状態の把握、結核などの疾患の早期発見に主眼が置かれていました。

しかし、今はどちらかというと「がんや生活習慣病の対策、未病対策」といった観点が重要になってきています。これらの疾患を防ぐために、従来の健康診断に加えて「先制医療」の考え方を取り入れて実行していく必要性が増してきていると思われます。将来起こりうる病気を発症前に予測し、対応する先制医療の観点に基づき、我々は労働安全衛生法で定義されている従来の健診項目に加えて新たなバイオマーカーも今後取り入れていく必要があるのではないかと思います。その点では、脳卒中や心筋梗塞という重篤な疾病のリスクを事前に把握し、動脈硬化性疾患の予防につながるバイオマーカーとしてLOX-index®は有用な検査であると考えています。

(*1) 現在は精神疾患が加わり5疾病。

検査のご活用についてご意見をお聞かせいただけますか

もちろん、医療の観点ではその病気を直接見る検査、例えばCTやMRIなどの画像検査は信頼性も高く重要です。ただ、労働者の健康管理の中で、全員に行うのは現実的には難しいところがあります。その点、LOX-index®は病気の有無を見つけるためのものではないですが、血液で多くの方を対象としてスクリーニングし、リスクが高ければそういった画像検査につなげることもでき、非常に意味のある検査だと思います。

また、LOX-index®については近年の知見から動脈硬化のリスクファクターの判定に有用であることが分かってきているようです。例えば、肥満や喫煙といった生活習慣や高脂血症ともLOX-index®は相関が得られており(*2)、肥満の場合ではカロリー制限によって(*3)、禁煙することによって数値が改善するというのはリスクファクターの改善指標として有用であると思います。

(*2) LAB値が非喫煙者に比べ多量喫煙者(一日平均20本以上)において有意に高値を示したと報告されています。 (K Uchida, et al. Clinica Chimica Acta, 412, Issues 17‒18,2011,1485-1696 )

(*3) 過体重および肥満の閉経後女性において、カロリー制限がsLOX-1の濃度を減少させることが報告されています。また、肥満男性への介入プログラムの実施によってsLOX-1が低下することが報告されています。( Tina E. Brinkley,et al. International Journal of Obesity, 35, 2011, 793‒799 / N Yasuhiro,et al. Metabolism., 58(9), 2009, 1209-14.)

受診者の方の評判についてお聞かせいただけますか

導入してまだ1年程度ですが、受診者の方々には好評であると思います。ぜひ従業員の健康管理に向けて採用をしたいという企業もあるようです。40代以降では生活習慣病のリスクがあがってくる年代ですし、生活習慣の改善のきっかけとしてLOX-index®を受診し、ご自身の血管の健康状態を確かめるというのは働く人本人にとっても、企業にとっても健康を見直す良いきっかけになるかもしれないですね。

もちろん、負担費用はそれなりにかかる検査ですので、その分我々も啓蒙活動や健康教育をきちんと行っていかねばならないと思います。その検査の医学的根拠や有用性という点を事前に伝え、納得してもらった上で受診することがご本人にとってもメリットにつながるのではないでしょうか。

今後の展望をお聞かせいただけますか?

LOX-index®は研究でもわかっているようにST上昇型心筋梗塞の予後の状況の把握(*4)や心筋の虚血の状況を定量的に評価できる(*5)という点もあり、発症評価の点では良いと思います。ただ、我々の仕事でもあるのですが、指標のもつ基準をより鮮明なものにしていく必要性は感じますね。

例えば、○○歳だったらXXという値はどの程度危険なことなのかといった、年齢や性別あるいは職業に合わせた基準値が出てくると面白いと思います。そのためには今後の疫学的アプローチやそういった臨床例を捉えていくことが重要であり、二次予防や三次予防としてもどれだけ有用性があるのかが明らかになってくると面白いですね。

(*4) ST上昇型心筋梗塞の患者の追跡調査を行った結果から、sLOX-1の上昇がSTEMI後の長期予後マーカーとなる可能性が示唆されています。 (T Higuma ,et al. Circulation Journal,79, 2015, 641-648 )

(*5) sLOX-1が複雑な冠動脈病変の有無と関連を示しおり、冠動脈プラークの脆弱性を表すバイオマーカーとなる可能性が報告されています。 (Zi-Wen Zhao,et al. Clin. Cardiol. 34, 3, 2011,172‒177)

貴重なお話とご意見をありがとうございます。

栁澤 信夫 先生

【専門】
神経内科、老年神経学、脳生理学、パーキンソン病などの
運動障害、アルツハイマー病などの認知症の臨床と研究

【学歴・職歴】
昭和35年 3月 東京大学医学部医学科 卒業
昭和44年 9月  米国ハーバード大学医学部留学 (2年間)
昭和55年 10月 信州大学医学部第三内科教授
平成5年 11月 信州大学医学部附属病院院長
平成8年 2月  信州大学医学部長(現名誉教授)
平成9年 7月 国立療養所中部病院・長寿医療研究センター院長(現名誉院長)
平成13年 10月 労働福祉事業団 関東労災病院院長(現名誉院長)
平成20年 4月 財団法人全日本労働福祉協会会長 現在に至る
(平成25年4月1日より一般財団法人全日本労働福祉協会へ法人格移行)

【学会活動】
日本職業・災害医学会名誉会長 /日本神経学会名誉会員
日本内科学会名誉会員/日本認知症学会名誉会員/ ベルギー王立医科学アカデミー名誉会員

【公的役職の経歴】
厚生労働省:疾病・障害認定審査会会長
法務省:東京地方裁判所民事調停委員、同専門委

一般財団法人 全日本労働福祉協会

昭和29年に中小企業の労働者の健康管理を目的に財団法人として設立され、現在は労働者を対象に年間およそ92万人の労働安全衛生法に基づく定期健康診断及び有害業務従事者を対象にした特殊健康診断等を実施しています。